fumi_saeki’s blog

物語の試作品をあげています。

花粉症

 昭和真っ盛りの里山に育ったぼくらにとって,公式の遊びは野球とかドッヂボールのような校庭を利用した一種のマススポーツだった。少なくとも三人は集めないと成立条件が整わないから,下校前には人員募集をかけるのだが,もちろん毎回成功するとはかぎらない。となると,非公式の遊び,言ってみれば「その場で考えついた」遊びを一人か二人で行うことになる。

 魚釣りでも良いのだが,胸躍らせるような大物が潜む河もなく,寒い季節になっては釣られる方の食欲も失せる。だから,もっとその場しのぎの遊びが必要になってくる。たとえば冒険の類のような。冒険と言っても,大げさな装備は必要ない。学校から帰ってすぐ出かけられ,もちろん晩ご飯までには帰ってくることができる。

 まずは山に分け入ろう。大丈夫,武器もモンスターもあれやこれやもすべて現地調達だ。大事なのは想像力,いや,正確に言うなら妄想力だ。気の根元に転がっているオイル缶がドラゴンに見えないといけない。ぼくらをはるかに見下ろす大きな体をもち,翼も生えている。光っているのは,燃えるような獣の目と鉤爪であって,缶に光が反射しているのではない,決して。

 そして手にしているのは,そこらに落ちていて,たまたま拾った棒切れではなく,名高い名匠が鍛え上げた伝説の剣だ。たとえオイル缶,いやドラゴンをぶっ叩いてポキンと折れたとしても,それは目の錯覚であって,鋭い刃に傷一つついてはいない。注意すべきなのはむしろ,二人で旅に出かけた場合に剣の名前で争うことだ。村正は一本しかないし,エクスカリバーも二本は存在しない。おそらく剣の争いはドラゴンを倒すことより過酷になろう。下手をすれば旅の仲間を失うだけでなく,友達も失うかもしない。

 冒険に飽きたらゴルフをしても良い。ここでも妄想力が必要となる。家にある金槌系のエル字型になった金属がドライバーにも,パターにも見えなくてはいけない。いや,アイアンであり,サウンドウェッジにほかならない。たとえボールが野球で使うものぐらい大きくても,まぎれもなくそれはゴルフボールだ。あとはそのボールに合った適切な大きさのホールがあるだけで良い。

 里山には自然にできたバンカーも池も用意されている。そうそうボールがロストした時点でホールアウトになるし,もしかしたらお兄ちゃんに殴られるかもしれないので,この点注意した方が良いだろう。 そうすれば山はフィールドに,田んぼや畑はフェアウェイになり,大いに満喫できるだろう。ただし,最後にもう一点だけ忘れないで欲しいのは,どんな遊びでもやはり体が資本ということだ。

 場所が場所だけに蜂や蛇は出る(こちらの方がだんぜんモンスターなんて言わないで欲しい)。触ったらかぶれる植物も多い(こちらもモンスターではないので悪しからず)。とくに大変なのは花粉症だ。 ぼくの旅の仲間でゴルフクラブのメンバーだったFくんは,ゴルフのプレー中に発症した。

 原因はミスショットでボールが田んぼ,いやOBになり,そこにわさわさと生えていた稲のなかに入ったことだった。以来,Fくんはずっと涙と鼻水と頭痛に悩まされ,冒険にもゴルフにも参加しなくなってしまった。折良くファミコンが普及したので,彼は自宅で冒険もゴルフもやり始めた。たぶん今でもこの時期になると,完全防備で外に出ていると思う。花粉症は実にやっかいだ。