fumi_saeki’s blog

物語の試作品をあげています。

サワコの雪男

 サワコから,披露宴の招待状が届いた。彼氏とかそういう恋愛話と,まったく結びつかないイメージだったサワコがいつの間に,というのが私が最初に思ったことだった。

 大学のUMAサークルで知り合ったとき,サワコは赤いチェックのネルシャツに,細身のデニムパンツ,白いコンバースのハイカット姿で,メイクといえば眉を描いているくらい,このうえなく自然体だった。

 小さいときに日本最後のツチノコを目撃した,と主張するサワコは,暇をみつけては,キャンパス近くの山での雪男散策に余念がなかった。

 「イエティじゃないの,雪男。日本なんだから和製よね。」

 それならサークルもユーマじゃなくて,日本未確認生物部とかでも良いんじゃないの,ときいたら,

 「ユーマは世界の共通用語だから良いの,そのままで。」

 イエティは違うの?

 「雪男はね,雪女と対になってるの。雪女の男性バージョンが雪男なの。」

 白装束を着て,冷たくかわいそうな女性の男版?白和装の,触れたら凍える美男子ってこと?ふつう雪男って,大きい毛むくじゃらな原始人じゃないの?サワコは,大きくううんと首を振った。

 そんな雪男探索に行っては,季節の山菜ばかり持って帰るサワコに,男子部員は,食糧調達が真の目的ではないか,サークルの本分を見失っているのではないか,とかげ口をたたいた。

 なかでもヒバゴン論争でサワコにけちょんけちょんにされたアキテルは,その急先鋒で,何かにつけてサワコにかみついた。いや,議論をふっかけるとかではなくて,あらぬ噂というかデマを流すだけだった。

 アイツの両親って、例の諜報機関の機密情報をぬすみ出そうとして,クビになってアメリカ国籍をはく奪されたんだって。いまは自宅で変なもん発明して金稼いでるらしい。どうせあの陰謀だらけの超大国の技術をウリにしてるんだろうな,アイツの親だから。サワコはこれを第三者から耳にして,

 「いつか,名誉不遜で訴えてやる」と鼻息も荒く怒った。そもそも名誉毀損だし,それに,雪男の話と同じくらい真剣なのはなんで?小学生でも言わないバカバカしいデタラメだってくらい誰だって分かるのに,と私は不思議だった。

 噂といえば,サワコが帰国子女だってのは本当だったのだろうか。

 彼女と英語の授業が一緒だった子と,卒業してからたまたま居酒屋で鉢合わせした。話題はごく自然にサワコの話になった。サワコの発音の「キレの良さ」と,ネイティヴの先生に物おじしない「オシの強さ」を思い出しながら,彼女はありゃホンモノだねと言っていた。

 それよりね,先生が細かいこと指摘すると,あの子,小さな声でガッデムんって連発するの。ふつうそんなこと言わないでしょ。しかも,ガッデム「ん」よ。本場だとあれが正しいのよね,たぶん。

 サワコと英語のクラスが別だった私は知らなかったが,脇を向きながらガッデムんをつぶやく彼女の姿は,想像してみると,すごく彼女にふさわしい気がした。

 私は,捕獲も確認もできない未確認生物に,二年で見切りをつけ,残りの学生生活はバイトに明け暮れた。卒論をコピペしながら書き上げたときには,第二希望だった某アパレル企業の内定が出ていた。

 卒業年度になってもサワコが先頭に立ってサークルの勧誘に出ていたと,同じ科の後輩たちは誰かれなくささやいていた。先輩は就活しないで,相変わらずイエティを探してるらしい。イエティじゃなくて,雪男だよ,と私は思ったが,訂正するのはいろいろややこしい気がしたので,口には出さなかった。

 サワコとはそれっきりになっていた。

 目の前にある招待状には,サワコの名前のとなりにアキテルの名前が記されている。二人がいつ付き合いはじめたのだろうという疑問よりも,アキテルが「名誉不遜」で訴えられなかったんだと私は考えた。

 それにしても媒酌人のジョナサンって誰だろう。相変わらず謎の多いサワコらしいと言えば,そうだけど。

 きっと,披露宴の会場には,UMAサークルのOBがたくさん招かれるのだろう。出し物も影絵のネッシーや、河童のコスプレイヤーによるキュウリ踊りだったりして。

 なんだか急に懐かしい気分になった私は,卒業してから経った年数を,久しぶりに指折って数えてみた。