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fumi_saeki’s blog

物語の試作品をあげています。

冒険のはじまり

 また白銀の大地か。ここはモンスターの出現率が高く,レベルもまちまちなので踏み入らないように気をつけてきたんだけれど。斥候役のペティがまた悪戯心を起こしたみたいだ。やれやれ困ったものだ。先手を打たないと,またあの人が——

 「おい,また白銀だぞ,どうなってる?この前,スプラウトにエンカウンターくらったばかりだろ。ここはヤバイって知ってて連れて来てんのか?ふざけんなよ,ペティ!おい,ペティ!」

 やっぱりチャイナさんが大声で叫びはじめた。もういつものことなのに。ねえ,チャイナさん,あんまり騒がないでください。そんなに大きな声を出すと,またモンスターに気づかれて先回りされてしまいますよ。

 「あらあら,また小競り合い?大変ねえ。そんなに騒いでは陣形も乱れますよって,まあ,あってないような陣形ですから,整えようもありませんね,くす。」

 斜め上を浮遊しながら,シーズニングさんが皮肉を込めてせせら笑う。

 「お前,喧嘩売ってんのか,シーズン!首根っこを引き抜くぞ!いつもいつも,そんな風に斜め上から小馬鹿にしやがって,さあ,今日こそ降りて来やがれ!俺様が決着つけてやる!」

 チャイナが鼻息も荒く息巻く。やれやれ,いつもこうだ。チームワークって概念がないんですね。まったく。喧嘩をしている暇があったら,周囲感知能力を少し高めておいて欲しいんですけど。——

 ——タジンは数週間前のキュッヒェでの出来事を思い出していた。

 

 「集いし仲間は数あれど,伝え聞きし栄え,いまだ成就せず。」銘の刻まれた白亜の大門を開くと,仲間を求める者たちの発する声が,あちこちで乱反射する喧騒に放り込まれた。

 光り物の眷属,器の眷属,液の眷属が,所せましと押し合いへし合いをしている。仲間の交渉なのだろう。そうかと思えば,入ってくる者を値踏みする鋭い視線を隅から放っている者もある。ここはいつ来ても慣れないし,落ち着かない。

 キュッヒェのまとめ役ジップを探して,近くの棚に近づいた。向こうも気づいたらしく横長の口を開いて挨拶してきた。

 「よう,タジンか。久しいな。前の仲間はどうした?」

 語るに値しない最後ですよ。固いチシャにスライサーが巻き込まれ,グレイターの棘が無効にされたんです。ほうほうの体で逃げ出したんですが,気づいたらぼく一人です。術を使う暇もありませんでした。チシャならぼくの術だけでも大丈夫だったんですけど。

 「まあ,あんまりパーティバランスは良くなかったな。とくに光り物の眷属は。揃え方を考えないと,モンスターによってはまったく歯が立たなくなる。」ジップは大きな口を閉めたり開いたりしながらつぶやいた。

 それは分かっています。分かっているつもりです。今回はその辺りをきちんと考慮して組みます。だれか,仲間を探している人はいませんか。編成は,光り物の眷属二人を希望します。あとは途中ででも見つけます。

 「それならちょうど良い。はぐれ者が二人いたんだよ。一人は斥候役を得意とするんだが,どうも危険に自ら突っ込むタイプで,一匹狼を決め込んでいる。で,もう一人は,光り物の眷属ではかなりの名家の出なんだが,万能型ではない。本人は万能型だと自慢してるがね。」

 ジップは何かに気づいたのか,横長の口をきゅうっと引き締めた。振り返ると,巨大な光り物の眷属が,知らないうちに背後に立っていた。かなりの広刃だ。キュッヒェの暗い光をすべて反射したのでタジンは目が眩んだ。

 「おいおい,まとめ役だからって,勝手に人のことを吹聴してもらっちゃあ困るなあ,よお。」その眷属は大ぶりな刃に似つかわしい大きな声でどなった。

 ジップが限界にしぼった口からピューと高い音を立てた。

 「こいつはチャイナって呼ばれてる。見ての通りの大ぶりものだ。何かと役にたつ——いや,とても優れた眷属の末裔だよ。伝説の眷属の,さ!」

 タジンは小さくよろしくと挨拶の言葉を言おうとしたが,チャイナと呼ばれる眷属がそれを遮った。

 「俺様に目を止めるたあ,たいした眼力の持ち主だ。お前,みたところ器の眷属か。ちょいと失礼——」広刃の先を軽くタジンの胴に当てた。向こうはそのつもりだっただろうが,タジンはよろめいて危うく転げそうになった。

 な,何をするんです。ヒビでも入ったらどうしてくれるんです。タジンが動揺しながらどうにか吐き出した言葉を,聞いてるのか聞いてないのか,

 「なかなか良い器じゃないか。見た目は脆そうだが,その響きだとかなりの強度も備えているみたいだな。よし,俺様の仲間に加えてやろう。俺様はチャイナだ。」

 ち,ちょっと待ってください。まだぼくは何も言っていません。仲間にするかどうかは,今度はゆっくり決め——そのとき,近くの棚の脇でゲラゲラと笑う声が聞こえた。その笑い声が自分に向けられたと思ったチャイナの広刃がギラリと光った。

 「おお,おっかない,おっかない。広刃のチャイナって旦那のことだったんだ。「悪魔の舌」相手にずいぶん苦戦したとか聞いていたが,その広刃じゃあ,さぞ大変だったでしょ。なにせ相手はぬるんぬるんときてる,もっと鋭くないとねえ。」

 声の主は面白がっているのか,それとも挑発しているのか,いずれとも判断し難かった。だが,チャイナの方は怒りが沸点になったとみえ,広刃が灼熱の色にだんだん染まっていった。

 「おい!誰だ,出てこい!見えねえところから俺様を馬鹿にするなんぞ,他の奴らが許しても,この広刃が許さねえ,目にもの見せてやる!さあ,出てこい!」

 これは一悶着起きるぞ,とキュッヒェにいた連中が集まってきた。ジップは,と見ると,棚の奥で体をできるだけ平べったくして「我知らず」を決め込んでいる。——ねえ,お願いです,ここで喧嘩はやめてください——

 「おっと,そんなにカッカしないでくれよ,旦那。「悪魔の舌」,別名「象の脚」は,光り物の眷属といえど,よほどのレベルがないと倒せないのは百も承知。俺はそんな無謀とも言える戦いをしたお方を御覧じたくて,こうしてやって来たんで。」

 声はあいからわず軽妙洒脱だ。どうやら本当に面白がっているようだ。チャイナは「無謀とも言える戦い」を履き違えて,「なんとも勇敢な戦い」と思ったらしく,今度は広刃を嬉しそうにキラキラさせた。——感情が表に出る性格らしい。

 「というわけで,俺も連れてってくれないかな。器の旦那。チャイナの旦那と旅するのは面白そうだ。おっと,紹介が遅れた。俺は光の眷属が一士ペテイ。どうぞお見知りおきを。」そう言って棚の上に現れたのは,小ぶりながらその鋭さで名を馳せた「走りのペティ」だった。

 おいおい,何だか勝手に仲間が決まっていくぞ。これでは互いの長所の調整や短所のすり合わせなどあったものじゃない。また誰かがヤられて敗走の目に遭わないとも限らない。——

 

 ——器の旦那,来ましたぜ。ペテイの声が響いた。チャイナが待ってましたとギラギラ光る広刃を備える。白銀の大地が激しく揺れた,マーリンスーよりもずっと大きな何かが来る——地平線の先に緑と黄色がまじった分厚そうな皮が見えた。あれは……

 「おっと,旦那,ありゃあ固いぜ。属性はわからないが,見たところどうやらナンキンの仲間らしい。どうします。」

 ナンキン!「悪魔の舌」とは違う意味で,光の眷属を苦しめるあのナンキンか!固い表皮もそうだが,肉もずいぶん固いと聞いたことがある。よりによってこんなところで出くわそうとは……

 「あらまあ,ナンキン!あれは固いわねえ。チャイナちゃんの広刃でもどうかしら,難しいかしらね,くす。タジンちゃん,何か秘策はあるの?」斜め上からシーズニングがからかうように囁いた。

 たしかにこのままではどうしようもない。チャイナの広刃は威力があるが,小回りが効かない。一振りできても,貫通できなければあれに押しつぶされる。あの大きささえ何とかなれば——そうか——

 「チャイナさん,渾身の「かち割り」をかましてやってください。ペティは下に回り込んで,チャイナさんの一撃を「逆刃切り」で受けてくれ。あとは,ぼくが器に入れるので,シーズニングさんはエンをお願いします!」

 おう!あいよ!ようござんすよ。それぞれ作戦を受け入れてくれたようで,配置についた。ナンキンが白銀の大地をこちらへゆっくり迫ってくる。大地がさらに大きく揺れはじめた。——もう少し,もう少し引きつけて——

 「チャイナさん,ペテイ,今です!」掛け声と同時に,チャイナの広刃がナンキンのはるか高みで半円を描いて振り下ろされた。と,早くも下に回っていたペティがその広刃の圧を逆刃で受け止める。ずずん,と大きな音がして,ナンキンは見事に真っ二つになった。——こちらも行きます!と浮かんでいるシーズニングに合図を送った。

 ナンキンの半身を器におさめ,急激に熱を込める準備をする。そこへシーズニングがエンを放った。器に熱を込めると,中に入れられたナンキンはプシューと呻いて,その肉がみるみる柔らかくなり,縮んでいった。——これがエンの力か——

 

 ——「おやまあ,何だか面白そうねえ。光り物の眷属のまったく違うタイプが二人,それに,おや,あなたは新顔の器の眷属ね。昔の土の系譜を思わせるわね。それでいて熱を巧みに操る,ほんとに面白そうだわ。」

 チャイナとペティを取り巻いている,その斜め上で声がした。どこの眷属なのだろう。色とりどりでしかも浮かんでいる。液の眷属ではない。調の眷属に似ていなくもないが——

 「あら,そんな困った顔をしちゃあいやねえ。あたしは粒の眷属,シーズニングよ。ウェストエンドから来たから,あたしもあなたと同じ新顔ねえ。面白そうだから,あたしもついていくわ。」シーズニングという粒の眷属は,ほほほと笑った。

 「おい,お前,そのつぶつぶした奴,お前は何ができるんだ!浮かんで高みの見物か?役に立たな奴はごめんだね。どうせ危険になったら,一目散に飛んで逃げるんだろ,おい!」チャイナが広刃をまたギラリと光らせた。

 シーズニングは少し真剣な顔をした。

 「あんた,知らないみたいね。これまで粒の眷属に出会ったことがなかったのかしら。あたしが粒をふるえば,あんたの広刃もすぐにくすんで錆だらけよ。少し試してみる?でも,錆がでちゃったら自慢の広刃も台無しねえ,くす。」

 粒の眷属。ウェストエンド。聞いたことがある。さまざまな属性の粒を使いこなす。それはモンスターにも,こちらの眷属の側にも作用する力を持つと言う。

 「チャイナさん,お願いです。ここはぼくに免じて広刃を収めてください。あのシーズニングさんの力は,光の眷属にも,ぼくら器の眷属にも影響を及ぼすと聞いたことがあります。お願いします!」チャイナは不服そうだったが,シーズニングの不敵な顔に感じるところがあったのか,広刃を収めてくれた。

 「そうそう,いい子ねえ。器のぼくも,なかなかの判断じゃない。気に入ったわ。」——

 

 ——エン,水分を抜く力,光の眷属の酸化を促す力。ぼくの器の熱との相乗効果でその力は倍以上になる。これではモンスターもひとたまりもない。器を開けると,ナンキンの半身は三分の一以下になっていた。——これで残りの半身も——

 「よっしゃあ,ナンキンをぶっ倒してやったぞ!俺様の「かち割り」を見たか!あれでナンキンはイチコロだったな!」「いえいえ,俺が下にまわり込んで逆刃を構えていたから真っ二つにできたんですよ。」チャイナもペティも譲らない。斜め上では,シーズニングが二人のやり取りをニヤニヤしながら見ている。やれやれ。

 チームワークとはとても言えないけれど,まあ,こうしてぼくらの冒険は始まった。